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 弁護士・公認会計士  洪 勝吉

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退任役員に退職慰労金を支給したくないときの注意点

前回は退任役員に退職慰労金を支給する際の留意事項を確認しました。
今回は、なんらかの事情があって、退職慰労金を支給したくないときにどのような問題が生じるかを見ていきます。

 

退職慰労金の支払いを請求できる権利が発生するのはいつか

前回みたとおり、退任役員に退職慰労金を支給するには、定款での定めがなければ、株主総会の承認決議が必要です。
退職慰労金請求権は、原則として、退職慰労金を支給することが株主総会で決議されるまでは抽象的な権利にとどまり、具体的権利としては請求できないと解釈されています(最高裁昭和56年5月11日判決、同平成15年2月21日判決)。
この点については、退職慰労金の支払いは恩恵的な性格を有するもので、労働者の退職金とは性格が異なるとか、いつでも解任される可能性のある取締役は、在任中の報酬によって評価されることが本来的であるなどと説明されています。
 

全株主の同意があるとき

最高裁平成15年2月21日判決では「報酬額を定めた定款の規定又は株主総会の決議がなく、株主総会の決議に代わる全株主の同意もなかったのであるから・・報酬請求権を有するものということはできない」と判示されました。
この判示部分は、株主総会決議に代わる全株主の同意があれば取締役の報酬請求権の成立が認められると読むことができ、形式的に株主総会決議がなくても、全株主が同意があると認められる事実経過のときは、退職慰労金の支払請求が認められると考えられます。

また、株主が一人である一人会社の場合には、この株主が退職慰労金の支給を決定すれば、株主総会決議があったものと同視して退職金の支払請求が認められます。
東京高裁平成7年5月25日判決は、実質的に株主権を行使して会社を運営する株主が唯一人である場合に、その一人の株主によって退職金の額の決定がされたときは、株主総会の決議がなくてもこれがあったと同視することができるとしして、退職金の支払請求を認めました。
 

全株主の同意があるとは言えないとき

裁判例の中には、次のようなケースで全株主の同意がなくても退職慰労金の支払請求が認められたものがあります。
京都地裁平成4年2月27日判決は、株主総会や取締役会が開催されたことのない同族会社において、ワンマンな代表取締役が、退職慰労金の支給を決定・通知し、決算書にも計上され法人税の申告もなされていたケースで、総会決議がないことを理由に支払いを拒むことは許されないとしました。

東京高裁平成15年2月24日判決は、退任時に退職金を支払うことなどを定めた覚書が、議決権の3分の2以上を有する株主兼取締役による取締役会決議で承認された上で交わされるなど、事実上株主の了解を得て慣行とされてきた手続を経て、退任した役員への退職金支給決定がされ、実質的に株主の利益が害されないとして、退職金の支払請求を認めました。

最高裁平成21年12月18日判決は、発行済株式の99%以上を有する会社代表者が退職慰労金の支給を事実上黙認していると評価でき、これまで退職慰労金の支給を受けた退任取締役と同等以上の業績を上げていたことなどからすると、不支給にすることに合理的な理由があるなどの特段の事情がない限り、一度支給した退職慰労金の返還を求めることは許されないとしました。

このように、退職慰労金の支払いを明確に約束した場合や、現に退職慰労金を支給してからの返還請求については、厳密には全株主の同意があるとは言えないときでも、退職慰労金の支払い等の請求が認められることがあります。

 

株主個人に損害賠償責任が生じるとき

佐賀地裁平成23年1月20日判決は、過半数を超える支配的株主が、みずから内規のとおり退職慰労金を支給する旨を説明したにもかかわらず、株主総会において退職慰労金の不支給決議を主導した場合に、退任取締役に対して不法行為責任を負うとして、退職慰労金相当額の賠償を命じました。
この事例では、会社内に深刻な内紛が生じていた事実経過もあり、やや特殊な背景事情があるとは言えますが、株主個人の責任が認められたものとして注意が必要です。

このように、それまでの会社での手続の状況や、退任取締役とのやり取りなどの事実経過によっては法的リスクが高くなるケースもありますので、退職慰労金の減額や不支給を検討する場合には、事実関係や裁判例の検討を慎重に行うことが必要です。
 

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