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 弁護士・公認会計士  洪 勝吉

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株主に相続が発生したときの対応法

株主の一人が亡くなったときに、会社側でどのような対応が必要になるか確認しましょう。

発行済み株式1000株のX社(非公開会社)の株式100株を有するAさんが死亡し、配偶者Bさん(相続分2分の1)、子供Cさん・Dさん(相続分はそれぞれ4分の1)の相続人がいる(遺言はない)という事例を例にして見ていきます。

 

株式は相続の対象になる

株式は相続の対象になります。
このことは当たり前のようにも思いますが、合同会社などの持分会社の持分については、定款に定めがなければ相続の対象になりません(会社法607条1項3号)
代わりに持分払戻請求権が相続されますが、出資者としての地位が相続されるわけではありません。

 

株式は遺産分割の対象になる

株式は遺産分割の対象になります。
単純な金銭債権は、相続の対象にはなっても、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され、遺産分割の対象にはなりません。

他方で、株式は、株主たる資格において会社に対して有する法律上の地位を意味します。株主は、株主としての地位に基づいて、配当請求権などの自益権や議決権などの共益権を有します。
このような権利の内容や性質は単純な金銭債権とは異なりますので、株式は、相続分に応じて自動的に分割されるものではないと理解されています(最高裁平成26年2月25日判決)。

そのため、事例にあるAさんの相続によって、Bさんが50株、CさんDさんがそれぞれ25株を自動的に相続するわけではありません。
遺産分割協議が成立するまでは、X社株式100株全体を、Bさんが2分の1、CさんDさんがそれぞれ4分の1の割合で準共有(遺産共有)します。
 

相続は譲渡制限の対象にならない

多くの会社ではX社のように、株式譲渡に会社の承認を要するとの譲渡制限が付されています。
しかし、譲渡制限は「譲渡による株式の取得」について制限されるもので、相続は「譲渡」ではありませんので、相続人は、会社の譲渡承認を受けずに、株式の名義書換を請求することができます(会社法134条4号)。
相続人から名義書換を請求されたときは、会社は、相続により承継したことを証する書面を提出するよう求めることができます(会社法施行規則22条1項4号)。
会社としては、株主が死亡したことや、請求者が相続人であること、遺産分割協議が成立したことなど、戸籍や遺産分割協議書、印鑑証明書などの提出を求めて、名義書換の請求者が株式を相続により取得したことを確認する必要があります。

 

遺産分割が成立するまで

先ほども見たとおり、遺産分割が成立するまでは、株式は遺産共有の状態になります。
株式は、所有権以外の財産権ですので、民法264条が適用されますが、「特別の定め」があるときは、これに従います(民法264条ただし書)。
そして、「特別の定め」として、会社法106条本文が、「共有者は権利行使者を1人定め、会社に通知しなければ権利を行使することができない」との定めを置いています。
会社としては、相続人から権利行使者の通知があれば、当該権利行使者に通知することで足ります
なお、共同相続人による権利行使者の指定は、管理行為として、法定相続分の過半数で行うものとされます(最高裁平成9年1月28日判決)ので、この要件を満たしているかの確認が必要です。
会社法106条ただし書は、会社が同意すれば、権利行使者に関する同条本文の規定が適用されない趣旨を定めますが、会社が自由に権利行使者を定めることができるという趣旨ではありませんので、注意が必要です(最高裁平成27年2月19日判決)。
会社が権利行使者の通知を受けるまでの間は、株主への通知などについては、共有者の一人に対してすれば問題ありません(共有者が定めた催告受領者が会社に知らされている場合はその者へ、そうでなければ共有者の一人に送る(会社法124条3項・4項))。
 

相続人から株式を買い取る

定款の定め

会社は、その定款に相続その他の一般承継により株式を取得した者に対して、株式の売渡請求ができる旨を定めることができます。
先ほど述べたとおり、相続には譲渡制限が適用されませんが、相続により会社にとって好ましくない株主が出現することを阻止できる手段を手当てするためです。
ベンチャー投資の場合や、事業承継M&Aでオーナーが一定の株式を継続保有するような場合でも、経営者株主や元オーナー株主の相続人が経営に参画することは他の出資者からは通常望まれないため、この売渡請求の定めを定款に置くことは多いように思われます。

売渡請求に際しては、複数の相続人の中から特定の相続人のみを対象として売渡請求をすることも可能です。
また、遺産分割協議が成立する前の遺産共有の状態であっても、共同相続人の中の特定の相続人に対し、共有持分を対象として売渡請求することができると解釈されています。
さらに、売渡請求の時点で株主たる地位が移転し、相続人が株主としての地位を失うとした裁判例があります(札幌高裁平成30年1月30日判決)。
 

手続の流れと留意点

相続が生じた後に定款を変更して、売渡請求の定めを置くことも可能です(会社法174条)が、相続があったこと(Aさんが死亡したこと)を会社が知ってから1年以内に、株主総会の特別決議を経て、売渡請求を行う必要があります。
相続人に対する売渡請求の場合は、通常の自己株式の取得の際と異なり、他の株主が自らを売主として追加するよう請求する権利(売主追加請求)はありませんので、想定外に自己株式の取得額が膨らむことはありません(相続人に対する売渡請求での自己株式の取得にも財源規制があります)。
また、この売渡請求はいつでも撤回可能で(会社法176条3項)、一部撤回することもできると解されますので、とりあえず行使しておいて予定が変われば撤回するという対応も可能です。
上記の株主総会において、BさんCさんDさんは議決権を行使することができません(会社法105条2項)。Aさんの相続とは関係なく、会社の株式を持っていたとしても、その株式についても議決権を行使することはできないと解釈されています。
そのため、事例とは離れますが、オーナー経営者が死亡した場合に、少数株主が、この売渡請求権を利用して会社を乗っ取ることも可能です。オーナー経営者やその相続人が保有する株式は売渡請求についての議決権がないためです。もし心配があるようなら手当てするように留意してください。
 

売買価格の決定

売渡請求の売買価格は、協議により定めます(会社法177条1項)。
協議がととのわない場合や、そもそも協議をすることなく、会社又は売渡請求をされた相続人は、売渡請求から20日以内に、裁判所に対し、売買価格の決定の申立てをすることができます(同条2項)。
裁判所は「請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」(同条3項)とされますが、裁判所に裁量があり、判断の予測は困難です。

譲渡承認請求のときとは異なり、期間内に価格決定の申立てがなされなかったときは、売渡請求は効力を失います
譲渡承認請求は、投下資本を回収する機会を株主に与えるものですが、相続人に対する売渡請求は、相続人の意思によらずに株式を売却させるものですので、双方から申立てがない場合に売買を成立させる必要が乏しいためです。
 

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