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非上場会社をM＆Aにより買収する場合、その株式の100%を譲り受ける取引が多く行われています。

社歴の長い非上場会社では、株券を発行することとされている会社とされていることがあり、この株券発行会社には特有のリスクがあります。

あまり一般に認知されていないのですが、法律上は、株券発行会社の場合、株式の譲渡にあたって株券を交付しなければ、株式の譲渡が無効になります（会社法128条1項）。

そして、平成16年の会社法改正前は、全ての株式会社が株券発行会社でした。
ということは、平成16年の会社法改正前からある会社については、株券廃止の定款変更等をしていなければ、現在も株券発行会社であることになります（上場会社については、平成21年の上場株券の電子化により、株券不発行会社に移行しています。）。
株券発行会社の場合、会社の商業登記に、「株券を発行する旨の定め」という欄が設けられ、株券を発行する旨が記載されています。

非上場会社の場合、株券発行会社であっても、過去に一度も株券を発行したことがないということを（しばしば）目にします。
先ほど見たとおり、株券の交付のない株式譲渡は無効とされているため、過去に行われた株式譲渡の効力がないとされるリスクがあります。
Aさん→Bさん→Cさんと株主名簿上の名義が移っていた場合、AさんからBさんへの株式譲渡が無効であれば、BさんからCさんへの株式譲渡も無効になります。
また、株券発行会社から株券不発行会社に定款変更しても、過去の株式譲渡が有効になるわけではありません。
そのため、過去の株式譲渡が無効とされる可能性がある場合には、現在の株主が誰なのか確定できないことになります。
そうすると、M＆Aで株式を譲渡しようとしても、誰が売主になるのか（誰が株式を保有しているのか）が確定できませんますので、大きな障害となりうることになります。

対応策の一つとして、過去の株式譲渡について、株券の交付をやり直すという方法があります。
株式の交付については、物理的に株券を順次引き渡さないで行う方法もありますので、簡易的な方法で順次過去の株式譲渡をやり直すことが可能です。

しかし、相続が発生している場合や、関係が悪化している場合など、株券の交付をやり直すことが困難だったり、かえって過去の株主とされる人物からの権利主張のきっかけを与えることにもなりかねないという問題もあり、現実的には難しいときも多いです。
 

株式という財産権が時効取得されると考える余地はあります。
しかし、判例や学説において、確立した見解があるわけではありません。また、無過失とは言い難いことが多いと考えられますので、過去の株式譲渡から20年間以上経過したケースでしか対応できません。
 

会社分割などの会社法上の組織再編行為を利用することがありえます。
会社法上、組織再編行為については、その効力を争える期間が限られているため、これを利用するものです。
 

これまで見てきたとおり、株券交付がなされていないという問題を解決することは法的には簡単ではありません。
とはいえ、長年にわたり何の問題もなく会社運営がなされていたのであれば、紛争化する危険はあまり大きくはない状況もありえます。
であれば、買い手側の経営判断として、リスクが発現した場合には、売り手に対して補償を求めることができるとの条項を株式譲渡契約の中で定めておく限度で、取引を進めるということもありえます。

このような判断を行うにあたっては、リスクの程度を評価する必要がありますので、できるだけ綿密・正確な調査を行っておくべきです。