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 弁護士・公認会計士  洪 勝吉

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IPO審査で問われる公私混同

IPO審査において「関連当事者取引」は、最初に指摘される典型論点の一つです。

特に「相場通りの価格であれば問題ない」という理解は、実務上は通用しません。

審査で問われるのは価格ではなく合理性であり、これを説明できない場合には是正や上場スケジュールの見直しを求められることがあります。

「税務上の適正」と「IPO審査における合理性」

関連当事者取引に関しては、「税務上問題がない価格であれば足りる」との理解が見られることがあります。税務の世界では「価格の妥当性」が中心となりますが、IPO審査ではそれだけでは足りません。
取引の構造自体が第三者との関係でも成立するのか、特定の関係者に利益が偏っていないかという観点から評価されます。
「なぜ第三者ではなく当該関係者との間で取引を行う必要があるのか」という事業上の合理性が検討対象です。

例えば、次のようなケースは、非上場企業では一般的に見られるものですが、IPOの文脈では厳格な整理が求められます。
リスクの大きいものから具体例を挙げます。これらの取引が複数存在する場合には、個別論点ではなくガバナンス全体の問題として評価されることもあります。

・会社名義の資産(車両等)が実質的に経営者の私的利用に供されている
・役員や関係会社との間で資金の貸付や仮払いが継続している
・社長個人が所有する不動産を会社が利用している
・知的財産権を個人が保有し、会社が対価を支払っている

これらについて合理的な説明が困難な場合には、特定の関係者への利益供与と評価され、上場審査上の問題として是正を求められる可能性があります。
 

自力判断が招く「2年のタイムロス」

関連当事者取引の整理は、単に契約内容を見直すにとどまらず、多額の資金を伴う資産移転や複雑な組織再編を伴うことが少なくありません。

ある企業では、親族が分散して保有していた株式の集約や、過去の経緯で複雑化した「兄弟会社」との出資関係の整理を後回しにしていました。
いざ解消に乗り出したところ、一部の関係者との交渉が難航し、法的な整理(吸収合併等)を完了させるまでに1年半以上の歳月を費やすことになりました。
その結果、当初予定していた上場スケジュールは2年の延期を余儀なくされ、多額の追加コストが発生するという事態に陥りました。

実務上は、当初は問題がないと考えられていた事項が、準備の後半になってから「重大な課題」として顕在化するケースが後を絶ちません。
関連当事者の範囲を特定するだけでも相応の時間を要するため、経営判断の延長線上のみで対応できる領域ではなく、専門的な整理を要する論点が含まれます。

このような遅延は特殊な事例ではありません。関連当事者取引は利害関係者が多く、整理が後ろ倒しになるほど交渉コストと法的対応の負担が急増するため、同様の問題は構造的に発生します。

 

「社会の公器」への脱皮

IPOは、経営の透明性を高め、不特定多数の投資家に対して説明可能な体制を構築するプロセスです。
そのため、これまで経営者の裁量に委ねられていた取引についても、第三者の視点から合理性を説明できる状態に整理していくことが求められます。

上場準備の「1丁目1番地」は、自社の状況を客観的に把握するショートレビューから始まります。
本格的な準備に入る前に、まずは第三者の視点を取り入れ、自社の「当たり前」を総点検することをお勧めします。
上場準備の初期段階で現状を把握しない場合、後半での是正は交渉・資金・法的手続のすべてにおいて負担が急増します。
そのため、これまで内部の合理性で許容されていた取引も、第三者の視点から説明できない限り維持することはできません。

 

まとめ

関連当事者取引の問題は、「存在するかどうか」ではなく「いつ顕在化するか」の問題です。
準備後半で発覚した場合、スケジュールとコストの両面で重大な影響を受け、短期間での是正が困難となり、そのまま上場スケジュールの遅延として顕在化します。
早期に現状を把握し、是正の難易度を見極めることが、実務上は最も重要な対応となります。

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