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 弁護士・公認会計士  洪 勝吉

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ショートレビューで見える会社の現在地

「実地棚卸しは、いつ、誰が、どのように確認していますか」「月次決算の数字を、経営判断に使える時期までに確定できていますか」
「取締役会では、重要なリスクや予実差異について、実質的な議論ができていますか」

IPO(新規上場)を目指す会社が、監査法人等による本格的な会計監査に入る前の段階で、一般に行うのが「ショートレビュー(予備調査)」です。
これは、会計処理だけでなく、社内の管理体制、規程の運用、関連当事者との関係、労務管理など、組織の現状を横断的に確認する予備調査です。

多くの経営者は、「毎年黒字であり、税務申告も適正に行っている。大きな問題はないはずだ」という自負を持って調査に臨みます。しかし、ショートレビューで問われるのは「税務上の正しさ」だけではありません。投資家その他の利害関係者に対し、財務状況や事業上のリスクを適切に説明できる体制が整っているか。この点が、非上場時とは異なる評価軸となります。

内部管理の課題から顕在化する取締役会の監督機能

非上場企業では機動性を優先し、特定の担当者に権限が集中しているケースも少なくありません。
たとえば、発注、検収、支払、会計記録といった複数の工程を一人の担当者に委ね、承認や照合の仕組みが十分に機能していない場合です。

こうした状態は、直ちに不正を意味するものではありません。しかし、不正や誤りを防止・発見しにくく、問題が生じた場合には、その把握や原因究明も遅れやすくなります。

内部管理上の不備は、単なる事務的な問題に留まりません。仮に不正等が生じた場合には、会社がどのような統制の基本方針を定め、取締役会がその運用をどのように監督していたかが問われます。こうした事情は、取締役の善管注意義務等が問題となる場面で、重要な判断材料となり得ます。
整備が不十分なまま放置すれば、後年、取締役会として必要な統制・監督を行っていたことを示しにくくなります。

また、月次決算が遅れれば、予実差異の把握や原因分析、改善措置も後ろ倒しになります。損益(P/L)だけでなく、資金繰りや運転資本、借入金、設備投資計画まで含め、経営上の変化を取締役会で議論できる状態にしておく必要があります。
会社規模や組織の成熟度に応じた権限分掌、承認、監督の仕組みを整えることは、上場準備のためだけでなく、法的リスクを管理する上でも重要です。
 

会計上の指摘が法務論点へつながる場面

ショートレビューで見つかる課題は、会計処理や内部管理体制にとどまりません。関連当事者取引、労務、取締役会運営、規程の未整備・未運用といった法務論点が、その背景に潜んでいることがあります。

第1回で取り上げた関連当事者取引もその一つです。役員や親族、関係会社との取引については、会計上の把握だけでなく、取引の必要性、条件の妥当性、意思決定手続、継続的な監視の仕組みまで整理する必要があります。

労務も同様です。「管理職だから残業代は不要」という社内判断は、労働基準法上の管理監督者の要件――職務内容、権限、待遇、勤務実態――に照らして改めて検証されます。
賃金請求権の消滅時効は法文上5年ですが、当分の間は3年とする経過措置が置かれており、過去に遡った是正が必要になれば、利益計画や資金繰り、就業規則・勤怠管理の見直しにも影響が及びます。

こうした問題は、会計上の指摘をきっかけに初めて顕在化することも珍しくありません。問題の有無だけでなく、誰がどのような権限で判断してきたか、必要な手続や記録が残っているかまで整理することが求められます。

 

「運用実績」を積み上げるためのスケジュール管理

ショートレビューの指摘事項に一律の期限はありませんが、重要論点については、上場申請期の直前々期(N-2期)を見据えた早い段階で、対応方針、責任者、是正スケジュールを定め、実際の運用を開始しておく必要があります。

重要なのは、指摘を受けた後の対応です。誰が責任を負い、いつまでに何を是正し、是正後に誰が再確認するかを明確にした上で、取締役会が進捗を継続的に把握できる状態にしておく必要があります。規程を作成するだけでなく、それに基づく承認、報告、監督、是正が組織として実際に行われている実績を積み上げることが求められます。

内部監査も同様です。N-1期の1年間を通じて、年間計画に基づき各部署・関係会社を対象に監査を実施し、指摘・改善指示・フォローアップまで行った実績を示せる状態にしておくことが一般的です。会社規模やリスクの内容によって範囲や手法は異なりますが、重要な部門や関係会社が対象から漏れておらず、監査結果が実際の改善につながっていることを説明できる必要があります。

内部通報制度については、経営陣から独立した通報窓口を設け、通報者の秘匿、不利益取扱いの防止、通報後の調査・是正の流れを実効的に設計する必要があります。外部の弁護士を窓口とすることも、その選択肢の一つです。

取締役会の議事録も、運用実績を示す重要な資料です。「全員一致で承認した」という記載だけでは、重要なリスクについてどのような情報が共有され、どのような議論が行われたかを後から説明できません。誰が何を報告し、どのような対応方針を決めたか、そのプロセスを記録しておくことが欠かせません。

 

まとめ:会計上の指摘を、法務上の是正につなげる

ショートレビューは経営者にとって、自社の課題と向き合う苦しい工程かもしれません。

しかし、IPO準備とは、結局のところ、社長の頭の中にあった判断基準を、社長以外の者にも説明でき、検証できる形に書き出していく作業だとも言えます。

会計・内部管理上の指摘が、取締役会運営、関連当事者取引、労務、規程運用といった法務課題に接続する場面では、事実関係、権限、手続、証拠を整理し、是正可能な形に落とし込む作業が不可欠です。

会計上の課題を会計だけで閉じず、法務・労務・ガバナンスの課題として整理する視点が、IPO準備を着実に進めるために必要になります。

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